甘味料のはなし・その3~甘味料と全身疾患の関係~

甘味料の過剰摂取が肥満やその他の健康リスクを高めることは広く知られています。
糖類摂取量を減らすために人工甘味料が利用されることが多いですが、人工甘味料は高い甘味をもちながらカロリーが低いかゼロであるため、2型糖尿病や肥満患者さんの血糖コントロールや減量に効果的だとされています。
しかし、近年の研究では人工甘味料が全身疾患に影響を与える可能性が示唆されており、いくつかの研究ではその有害性が指摘されています。
【甘味料のはなし】シリーズ第三弾、今回は甘味料が全身疾患に与える影響について説明します。
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甘味料摂取の糖尿病への影響
砂糖や糖質を摂取すると血糖値が上昇し、それに応じて膵臓からインスリンが分泌されます。インスリンは血糖値を下げ、元の状態に戻す役割を果たします。しかし糖の摂取量が多すぎると、インスリンの分泌が不足したり、インスリンが十分に機能しなくなったりすることで糖尿病を発症しやすくなります。
一方、人工甘味料はブドウ糖を含まないため、摂取しても血糖値は上昇せず、血中インスリン濃度も変化しません。このため人工甘味料の摂取は肥満や糖尿病の予防に効果があると考えられてきました。
しかし、近年の研究では人工甘味料が糖代謝異常を引き起こし、糖尿病のリスクを高める可能性が報告されています。フランスの栄養疫学研究チームの研究によると、人工甘味料を多く摂取する人は非摂取者に比べて2型糖尿病を発症するリスクが高いことが明らかになりました。また、日本における人工甘味料を含む飲料の追跡調査でも、これらの飲料を摂取した人は、摂取していなかった人に比べて糖尿病の発症リスクが1.7倍高いことが示されました。これを受けて、2023年にWHOは「人工甘味料は短期的には体重減少の効果がみられるが、長期的には逆に2型糖尿病発症リスクを高める可能性がある」と警告しています。
甘味料摂取の心血管疾患への影響
糖質の過剰摂取は、血糖値の急激な上昇、体脂肪の蓄積、体内での炎症の促進、脂質異常、高血圧などを引き起こし、これらの要因が複合的に作用することで心血管疾患のリスクを高めると考えられています。そのため、心血管疾患予防として人工甘味料の使用が期待されています。
しかし、近年の研究において、エリスリトールやキシリトールなどの糖アルコールによって血小板が凝固しやすくなり、その結果、血栓症の悪化や主要な有害心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)の発症リスクが高まる可能性が示されています。また、人工甘味料を多く摂取している人は、摂取していない人に比べて心血管疾患のリスクが高いことが示されています。
このように、糖質と人工甘味料のいずれにおいても心血管疾患に影響を与える可能性を示していますが、人工甘味料に関しては、心血管疾患のリスクを高める要因となる血糖値や血清脂質などへの直接的影響は認められていません。
甘味料摂取の肥満への影響
一般的に「砂糖=太る」というイメージがありますが、肥満のおもな原因は食べ過ぎや運動不足、不規則な生活習慣です。砂糖そのものが肥満の唯一の原因ではありませんが、過剰に摂取すれば肥満を引き起こす可能性があります。このような背景から、人工甘味料は肥満対策として注目され、2012年には米国糖尿病学会と心臓病学会が共同声明を発表し、「砂糖の代替品として人工甘味料が肥満や糖尿病の予防および治療に役立つ可能性がある」と提言しました。
しかし、その後の研究では「人工甘味料により甘味を感じても血糖値が上昇しないことが、エネルギーの恒常性を乱し、摂食行動が促進され、結果的に太りやすくなる可能性がある」と報告されています。また、強い甘味に慣れることで味覚が鈍麻し、より甘い糖質を摂取しようとする可能性も指摘されています。
実際に、ヒトを対象とした追跡調査の結果によると、非糖質系甘味料の摂取量が多いことは、高いBMIと肥満の発症リスクと関連していました。さらに、日本肥満学会の「肥満症診療ガイドライン2022」によると、介入試験では人工甘味料による減量効果が認められる一方、観察研究では肥満リスクとの関連が指摘されていることから、人工甘味料の積極的な摂取は推奨されていません。
人工甘味料の影響については未解明な点が多く、長期的な健康への影響については今後さらなる検討が必要です。健康的な生活を維持するためには、甘味料の摂取量を適切に管理し、人工甘味料の利用についても慎重な判断が求められます。
次回につづく




