甘味料のはなし・その2~甘味料と歯周疾患の関係~

甘味料のはなしシリーズ第二弾
(第一弾はこちら👉甘味料のはなし~その1~)
甘い物と口の中との関係と聞いて連想するのは、むし歯との関連ですか?それとも歯周病との関連でしょうか?多くの方はむし歯のイメージを持っているのではないでしょうか。そこで意外と知られていない甘味料と歯周病との関係についてお話ししていきます。
INDEX
甘味料による歯周病への影響
歯周病菌への影響
まず、細菌学的な観点からお話しします。
歯周病を引き起こす歯周病菌は多く存在しますが、メインとなるのは3種の菌です。
この中でもっとも有名なのはP. gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)でしょうか。これらを含む菌の多くはタンパク質をおもな栄養源とするため、グルコース(ブドウ糖)やスクロース(ショ糖)といった炭水化物を消費して増殖することはありません。つまり、甘味料が直接的に歯周病を招く、あるいは悪化させることは考えにくいです。
しかし、むし歯原因菌が糖を栄養にして歯肉縁上プラーク(バイオフィルム)を形成することは、前回の〜その1〜でお伝えしました。歯周ポケット内の歯肉縁下プラーク形成、そして歯周病菌の付着につながるため、間接的に歯周病を招いたり悪化させたりする可能性があります。
血糖値への影響
次に、血糖値の観点からです。
グルコース(ブドウ糖)やスクロース(ショ糖)を摂取すれば、血糖値が上がります。高血糖が続くと(たとえば糖尿病)、体内の細胞がインスリンの働きに鈍感になります。これは「インスリン抵抗性」と呼ばれ、すい臓はより多くのインスリンを分泌するようになります。
これにより血管を構成する血管内皮細胞の機能不全が引き起こされ、歯肉結合組織の破壊の進行に影響することが示されています。
また、高血糖状態が続くとマクロファージやT細胞のような免疫を担当する成分の減少や機能低下を招きさまざまな感染症、特に歯周病にかかりやすくなります。
高血糖が続くと、血管内の過剰な「糖」と「タンパク質」が結び付いた糖化タンパク質が蓄積されます。
これが最終的に「終末糖化産物(AGEs)」と呼ばれる劣化タンパク質になります。
AGEsは、骨を作る細胞に対してはマイナスに働く一方で、骨を吸収する細胞に対してはプラスに働きます。これにより骨の正常な代謝機構が壊され、歯を支えている骨である「歯槽骨」にも影響を及ぼす可能性が近年の研究で示唆されています。
口腔内の細菌環境への影響
ここまで歯周病と血糖値の関連性について述べてきましたが、甘味料の過剰摂取は、口腔内の細菌環境にも直接的な悪影響を及ぼします。
まず、スクロース(ショ糖)は、う蝕(むし歯)の主要な原因となります。口腔内の細菌、特にStreptococcus mutans(ミュータンス菌)は、スクロースを栄養源として利用し、代謝過程で乳酸などの酸を産生します。この酸が歯のエナメル質を脱灰(溶解)することで、むし歯が発生します。
さらに重要な点として、歯周病原細菌もまた、甘味料の存在下で活発になることが知られています。スクロースなどの糖質は、細菌の増殖を促進するだけでなく、プラーク(歯垢)の形成を助ける細胞外多糖の合成にも関与します。プラークは、細菌が集合して形成するバイオフィルムであり、一度形成されると、ブラッシングなどの機械的清掃では除去しにくくなります。この成熟したバイオフィルムの中で、歯周病原細菌は保護された状態で増殖し、歯周組織の破壊を引き起こす毒素や炎症性物質を産生し続けます。
特に、歯周病の進行に関与する代表的な細菌であるPorphyromonas gingivalis(P.g.菌)などは、糖代謝によって産生される特定の代謝産物を利用して増殖することが報告されています。したがって、甘味料の摂取量をコントロールすることは、歯周病原細菌の活動を抑制し、プラークの蓄積を防ぐ上で極めて重要となります。
結論として、歯周病患者さんに対するシュガーコントロールは、血糖値の管理という全身的な観点だけでなく、口腔内の細菌環境を改善するという局所的な観点からも、欠かせない要素であると言えます。
シュガーコントロールについて
血糖値への影響が少ないとされる甘味料
糖アルコール
合成甘味料(人工甘味料)
これらの種類は、血糖値への影響が少ないとされています。
血糖値を上げやすいとされる甘味料
グルコース(ブドウ糖):最も血糖値を上げるとされています。
スクロース(砂糖):次に血糖値を上げるとされ、摂取量に注意が必要と述べられています。
シュガーコントロールの主なポイント
甘味料の選択: むし歯や歯周病の原因菌のエサにならない、血糖値を上げにくい甘味料を選ぶことが推奨されています。例えば、てんさい糖は比較的GI値(血糖値の上昇しやすさを示す指標)が低い天然甘味料の一つです。
適切な量と頻度: 何事も「ほどほどに」が重要です。適切な量や摂取頻度を心がけましょう。
合成甘味料を過大評価して大量に、日常的に摂取すると、糖尿病になりやすい可能性があるという研究報告もあるため、摂取量には注意が必要です。
次回は、甘味料と全身疾患との関係について に続きます。

